MASは、ヒノキをはじめとする国産の針葉樹を用いる家具のコレクションです。約2500万haに及ぶ日本の森林面積のうち、スギやヒノキを中心とする針葉樹の人工林は約1000万haを占めています。第二次大戦後の復興需要を満たすため大量に植林され、伐採期を迎えている針葉樹は、輸入材との競合や住環境の変化などにより、十分に活用されない現状があります。
MASのデザインディレクターの熊野亘は、日本の「枡」から着想し、ヒノキの魅力である白木の美しさをふまえた家具を考えました。無垢の木を組む職人技と、無駄のない構造に裏づけられた枡。MASの家具もまた、素の色合いや木目が印象的で、清潔感ある佇まいをしています。
針葉樹は広葉樹に比べて柔らかく軽いため、堅牢さが求められる家具づくりには適さないとされてきました。しかしカリモクの技術と構造の工夫により、MASはその課題をクリアしています。素材の特長を巧みに引き出したMASは、日本の森の恵みと、現代の創造性の結晶なのです。
カリモクとしての日本の家具のスタンダードを考えてほしいというのが、MASのプロジェクトの起点でした。ニュートラルでどんな環境にも合う、カリモクのど真ん中といえる製品ということです。日本の森林や木工家具の課題に関しても話し合いを重ね、国産の針葉樹、特に十分な量がありながら需要の減っているヒノキを中心に使うことにしました。針葉樹は柔らかいので強度が担保しにくく、細かい加工も難しいので家具に向きません。しかしカリモクの技術なら可能だと考えたのです。
MASとは日本の「枡」のこと。枡には無垢の木と丁寧な技術が使われ、日本ならではの酒器として遺伝子レベルで親しまれています。カリモクがつくる針葉樹の家具に、そのイメージはふさわしいと考えました。またマスプロダクション(大量生産)のマスでもあり、針葉樹を使うことのハードルを超えて量産を実現するという意味も込めました。
広葉樹の木材は硬く、家具に凝った造形をプラスできますが、ヒノキなどの針葉樹は何かをプラスしない本質的なフォルムが合います。それは、自分のデザインの作風とも共通しています。MASは、いい金槌のような家具でありたい。金槌は見た目の美しさより、握り心地、打ち心地、しっかりした機能が求められます。それは私が考える理想のデザインのひとつでもあります。
カリモクの技術の高さは、ヨーロッパの木工家具メーカーに比べても高いポテンシャルがあります。ヨーロッパの人々は木に対する感度が高いので、そこを声高に主張しなくても、カリモクの品質が理解されることに心配はありません。MASは日本の技術や感覚に基づきながら、そんなヨーロッパの家具の世界に一石を投じたい。北欧の家具メーカーの製品が世界中で広く受け入れられているように、その先には大きなマーケットがあるはずです。
MASのラインアップはテーブル、椅子、スツールといったダイニングまわりから始まり、現在はシェルフなどのリビング寄りのアイテムを徐々に充実させています。これから同じコンテクストの上で世界観を広げていくために、海外のデザイナーにも入ってほしいと考えています。木の家具に対しての考え方が共有でき、MASを理解してもらえるデザイナーを構想しています。
現在、木を使って家具をつくることには、これまで以上に大きな意義を感じています。というのも、地球の環境を考えると、再生できない素材でものをつくることはデザイナーとしてやるべきではありません。そういう意味で木が自然に還る素材であることは大きいのです。また生きている素材なので、唯一無二の家具ができあがります。ある時代までの家具づくりは、木目や色合いがいかに揃っているかが重視されましたが、今は違いが個性であり価値になります。これも木に可能性を感じる点です。
ブランドディレクター
熊野 亘